東京高等裁判所 昭和44年(ネ)296号 判決 1969年6月16日
控訴人 宇田川秀太郎
被控訴人 国
訴訟代理人 森脇郁美 外一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。東京都墨田区寺島町一丁目一七七番二宅地三九坪五合につき、昭和三八年九月二六日付で作成された控訴人名義のその印章のある土地分筆申告書は、真正に成立したものでないことを確認する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決をもとめ、被控訴代理人は、主文と同旨の判決をもとめた。
当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
一 控訴人が、その真否について確認を求めるものが、土地分筆申告書の表題のもとに、申告の日付昭和三八年九月 日、申告名義人控訴人、東京法務局墨田出張所宛で、控訴人主張の東京都墨田区寺島町一丁目一七七番二宅地三九坪五合を、同年九月二四日の分割により、同番二、一五坪三合五勺、同番七、一八坪五合二勺および同番八、五坪六合三勺に分筆することを求める趣旨の書面と、それに添付された実測図および地形図からなり、前記出張所により、同年九月二六日第六五〇号をもつて収受されたものであることは、本件記録上明らかである。
二 そうして、右土地を所轄する東京法務局墨田出張所の、所謂一元化完了の指定期日が(昭和三五年法律一四号、不動産登記法の一部を改正する法律付則第二条参照)、昭和三九年一月三一日であることは当裁判所に明らかなところであるから(昭和三九年一月一七日法務省告示三八号)、右は、同法付則三条三号によつてなお適用される土地台帳法(昭和二二年法律三〇号)二六条所定の申告といわなければならない。
三 ところで、土地台帳は、土地の状況を明確にするための所謂地籍簿であつて、主として土地の物体的な状況に関する事項について、所要の登録をするものである(土地台帳法一条、五条および前記法律による改正前の不動産登記法四九条一〇号参照)。そうして、土地の分筆とは、一筆の土地を分けて、同一所有者に属する数筆の土地とすることであるが(土地台帳法二五条)、右はこれを欲する者の申告によつて(同法二六条)、土地台帳上の登録、すなわち、或る土地部分の台帳上の所属籍の変更という行政処分としてなされるものである。
してみれば、土地の分筆とは、或る土地部分についての事実関係の変動にすぎないから、その申告も、これに基づきなされる台帳上の登録も、いずれも右のような事実関係に関するものに外ならない。また、右申告は、台帳上の登録という行政処分の前提となるいわゆる私人の公法行為であるから、これによつて申告者と国との間に法律関係を形成するものではない。もとより、土地の分筆の登記は、土地台帳上の分筆の登録、従つてその旨の申告を前提とするけれども(前記改正法付則三条一号、二号により適用のある改正前の不動産登記法七九条、八〇条)、そのことの故に、申告の性質が右と別異になるわけのものではない。
四 そもそも、民事訴訟法において、証書真否確認の訴が認められているのは、法律関係を証する書面については、その真否が判決で確定されれば、当事者間では、右書面の真否が争えない結果、法律関係に関する紛争が解決し、或いは、少なくともこれが解決に役立つことが大きいことによるものであるから、その対象となり得るものは、直接法律関係を証する書面に限られる。
ところで、前示土地分筆申告書は、既に説示したところから明らかなように、どのような意味においても法律関係を証する書面ではないから、右は証書真否確認の訴の対象となり得ないものである。
五 してみれば、更に判断するまでもなく、控訴人の訴は、権利保護の利益を欠き却下を免れないものであるから、これと同趣旨に出た原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつてこれを棄却することとし、控訴費用は敗訴の控訴人の負担として、主文のとおり判決する。
(裁判官 岡部行男 川上泉 大石忠生)